Meta-Perception

主観至上主義の時代をメタに考える

よく聞かれる炎上案件について(1/2) -そもそもなぜ炎上するのか

炎上という言葉をご存知でしょうか。

コンサルティングファームではよくこの言葉を聞きます。 「ああ、あの案件は炎上してて大変そうだよね」とか、「炎上したせいでここのところずっと徹夜続きだ」と言った感じ。

OB訪問を受けたり、新入社員と話したりすると、「炎上案件の経験はありますか?」とか、「どんな感じですか?」とか、「どうやったら逃れられるの?」といった質問をよく受けます。

せっかくなので、ちょっと炎上について僕なりに整理してまとめてみたいと思います。

炎上とはなにか

そもそも「炎上」って何のこと?

何となく使っているけどちゃんとした定義はしていない人が多いような気がします。

炎上のイメージ

新人とかと話していると、下記のようなキーワードが浮かぶ人が多いようです。

  • きつい
  • 徹夜続き
  • 家に帰れない
  • 精神的に病む
  • 人間関係がよくない(ギスギスしている)
  • どんどん人が投入される

上にあげたキーワードは何となく炎上っぽい感じはしますが、定義としてはいまいちだと思います。

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炎上案件の定義

僕の中での炎上案件の定義は、特定の案件において、メンバーの労働時間が予定をはるかに超えて非常に長い状態が一定期間続く案件だと考えています。

人間関係や精神的に病んでいるかは関係なく、純粋に長時間労働が続くか否かだと思っています。

もちろん、労働時間が長く苦しくなった結果精神的に病んでしまったり、 人間関係が悪化することはあるかと思いますが、あくまでそれは結果です。

労働時間が長くなくとも、上司が厳しかったり、うまくいかずにストレスが溜まったりして精神的に病んでしまう方はいますし、早く帰れても人間関係が良くない案件なんかも普通にあるでしょう。

どんどん人が投入されるというのは、現状のリソースでは対応しきれないために、人海戦術で何とかするということですが、これは炎上案件への対応策ですので、炎上案件の定義とは違うと思っています。

炎上案件に人がどんどん投入されるというのは間違ってはいませんが。

「予定通り」「一時的」の長時間労働は炎上ではない

また、「予定を超えて」も重要な要素です。 コンサルティングファームでは通常、案件開始時にスコープをクライアントと合意し、 想定されるタスクを洗い出します。

この段階で大体どのくらい忙しくなるかはある程度見えるはずなので、その範囲内で労働時間が長い場合はあまり炎上とは呼びません。だった初めからそうなるって分かってたわけですから。

例えば、BDD案件なんかは、初めから過酷な案件になることは分かりきっているので、あまり炎上とは呼びません。 BDD案件のメンバーが遅くまで残っていても、そりゃそうだよねって感覚です。

また、企画ものの案件等で、最終報告書をまとめ上げる場合などは突発的に労働時間が長くなることはありますが、これも突発的で一時的なことなので、炎上と呼ばれることはありません。

一時的なことだし、鎮火するのが目に見えてるわけですから。

なので炎上とは?と言われれば僕は予定を超えてとにかく労働時間が長くことだと答えています。

「非常に長い」ってどのくらい?

労働時間が非常に長いと言ってもどのくらいから炎上なの?と聞かれそうですが、 これは人によって感覚が違うかもしれません。

炎上と呼ばれるときの労働時間の長さには僕は2パターンあると思っています。

  1. 慢性的に労働時間が長い案件
  2. 突発的に労働時間が長くなる案件

一つ目の方がイメージしやすいかもしれませんね。 何かトラブルが起こって予定外に労働時間が長い状態がその案件の間ずっと続くような感じです。

典型的なのがシステム系の案件ですね。 システムを導入する際に、何かトラブルが起こってその対応に追われるような状況です。

案件の初めに設定したシステムの稼働日に間に合わせるために、膨大な作業を一気にこなさなければならなくなったりします。

こういう場合、先述のように通常はさらに人を投入して何とかすることが多いですが、 人を増やしてもきついことには変わりありません。

この場合は、帰宅時間が終電くらいという状態が数カ月続くような感じです。

二つ目は企画ものなどでありがちなケースだと思います。

典型例としては、中間報告などで役員などに報告した時に、「ちょっと違う」とか「あれも検討してくれ」とか言われて一気に修正する場合などでしょうか。

一時的に一気に負荷が高まりますが、「ちょっと違う」部分の修正や「あれ」を検討し終われば基本的には落ち着くので、一つ目程絶望感はないです。

この場合は、終電を逃してタクシーで帰るのが数週間続くような感じです。

マネージャークラス以上では他の炎上の形がある

上述の定義で書いたのは、主にスタッフクラスを想定しています。

スタッフクラスとは、案件において実際の調査や分析、レポーティングを担当するメンバーのことで、 全体を統括するマネージャーとはロールが根本的に異なります。

マネージャー以上のクラスは、論点整理と進捗の管理が主な仕事ですが、スタッフクラスは実際に手を動かして紙を書くのが仕事です。

もちろんマネージャーも炎上案件では、深夜まで働くことはざらですので、上述の定義の「メンバー」にマネージャーも該当します。

しかし、責任者であるマネージャーは労働時間以外にも、炎上のタネを抱えています。 それは「クレーム」です。

最終報告をして、成果物を納品したのにクライアントが満足しておらずファームにクレームを出した。 この場合、マネージャーはこの対応をしなければなりません。

クライアントとの窓口としての対応はもちろん、社内のリーガルやパートナー陣とも打ち合わせが増え、マネージャーは批判の矢面に立たなければならず、とても精神的にハードになります。

典型的な例としては、

  • リサーチ案件で十分なファクトを集められなかった
  • 期限までにスコープのタスクを完了できなかった
  • 前提条件の変更等により、スコープを変更したがそれがクライアント上層部と握れていなかった

等があります。

僕はまだマネージャーではないので、マネージャーには他にも炎上のタネがあるのかもしれません。

なぜ炎上するのか

なぜ炎上するかを突き詰めるには、案件の構成要素を整理し、 どの要素がどうなると炎上するのかを整理する必要があります。

案件の構成要素

ここでは、炎上の理由を探るため案件を下図のように分解します。

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案件の構成要素(出所:筆者作成)

要素①:目的が曖昧な案件は炎上しやすい

コンサルティングの案件は、必ず何か目的があって始まります。

例えば海外進出したいと考えているクライアントがいるとします。 このクライアントがコンサルティングファームに依頼をするとしたら、

  1. この商品をこの国で展開したいから、この国の市場や規制を調べ、行くべきか評価してほしい
  2. このビジネスをするにはA国とB国、どちらがいいか調べてほしい
  3. この商品を展開するのに、どの国が一番いいか調べてほしい
  4. どの国でどんなビジネスをしたらいいかわからない

などなど…クライアント検討状況によって案件の目的は様々です。 案件は目的を達成するために立ち上げるものなので、炎上に非常に密接に関わります。

目的がフワッとして検討領域が広範囲に渡る場合、当然ですが炎上しやすいと言えます。 何に応えればいいか分かっていない状況だと、正確なプランが立てられませんし、 クライアントの中でも固まっていないので、案を持って行っても「うーん違う」となる可能性が高い。

上記の例では、数字が大きくなるほどフワッとしています。

1.はイメージしやすいですね。商品も対象市場も出すべき答えもわかっているので、ある程度正確にプランが立ちますし、炎上することなく乗り切れそうです。

2.もイメージしやすいですね。A国かB国かどちらがいいかロジカルにファクトベースで語ればいいです。 もちろん調査がたくさん出てきて大変でしょうが、予想外は起こりにくそうです。

3.の場合は炎上しそうな匂いがします。どの国がいいか絞り込むロジックなんていくらでも考えられますし、 全ての国をスコープにしたら永遠に終わりは来ません。 商品の特性等から、うまく最初に国を絞って作業量を減らす必要があります。 この国の選定ロジックをクライアントと握れておらず、検討が覆ると最悪です。

4.はほぼ間違いなく炎上しそうです。何をするかもどこでやるかも決まっていないとなると、そもそもどこから話を始めればいいかわかりません。 旨くスコープを切って、「まずは商品Aを展開する。進出先はASEANとし候補を2国に絞る」「中国で展開するビジネスを検討する」等、案件の目的を具体化し、クライアントと握ることが先決です。 これに失敗すると確実に炎上し、なんだかわからない報告書が出来上がります。

こんなわけで、ある程度は案件の目的によって炎上しやすいものを判断することができます。

ただ、クライアントがどうしていいか分かっていない状況を整理してやるべきことを明確にしていく というのは、コンサルタントの大きな価値の出しどころです。

上記の例の1.のパターンはクライアントの中で答えがあり、その検証をファームに外注しているだけで、 ほぼコンサルタントは作業者と言えます。

一方、4.のようにどうしていいかわからない状況を一緒に考えて進めていくことは、クライアントと共創し、 ビジネスを作り上げていくという点でとても価値あるものであると思いますので、 一概にこの手の案件はやらない方がいいとは言えないと思っています。

先が見えず困っているクライアントを助ける事こそコンサルタントの価値の出しどころです。

要素②、③:成果物、期間は炎上には関係ない

成果物とは、案件の最後にクライアントに収めるもので、一般的には最終報告書であり、Power Pointで書かれたレポートです。

これで炎上するのは基本的に納品後のクレームとなるので、マネージャーにとっての炎上となります。 スタッフはあまり関与しません。

ここで炎上するということは、クライアントの期待値コントロールも含めた マネージャーの管理不足が最大の要因と言えます。

同様に期間が長かろうが短かろうが、炎上することはあるので、あまり期間の長さが炎上の要因になることはありません。

もちろん、短期の案件程、一気に作業をこなすため、労働時間が長くなりがちですが、 あくまで「予想通り長い」ので、僕は炎上案件とは呼びません。

要素④:要求水準の高いクライアントは要注意

僕はクライアントのタイプを要求水準の高さと、ロジック力の2つの軸で整理しています。

要求水準とは、コンサルタントのアウトプットに求めるレベルの高さです。

これには質と量の観点があります。 質の観点にあたる、「これでは足りない、もっと質を高めろ」というオーダーが一番いついです。 質を高めようにも、投入時間に対して品質向上は限界的には低減していきますから、時間をかければなんとかなるわけではありませんし、それでもやろうとするとスケジュールを守れなくなってしまいます。

量の観点では、あれもこれもやってくれとどんどん作業量が増えていきます。

要求水準が高いクライアントの場合は、当初想定以上の質や量を求められ、炎上しやすいと言えます。

もう一つの軸であるロジック力は、クライアントのロジック面の強さです。

ロジック力が高いクライアントの場合、コンサルタントの提案を理解するのが早く、 リーズナブルな反応をしてくれます。

一方ロジック力が低いクライアントの場合は、全く意図しない反応をされることが多々あり 対応が大変になりがちです。

図にするとこんな感じです。

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クライアントタイプ分類(出所:筆者作成)

ライオンタイプ

要求水準もロジック力も高いクライアントをライオンタイプと定義しています。

コンサルタントの意図を正確に読み取った上で、 どこまでも高品質を求め、ここが足りないここがダメ、こうしろと要求します。

消費財メーカーのマーケターや製造業の製造部門等の大企業の花形部門の上役、社長、元コンサルタントのクライアントなどが該当します。

このタイプを相手にする場合は炎上しやすいと言ってもいいかもしれません。 彼らの期待値を満たし、超えるためには並大抵の仕事では無理です。 当初の想定をはるかに上回る要求が出ることもざらにあるでしょう。

このタイプはコントロールすることが非常に困難です。 覚悟を決めましょう。

猫タイプ

要求水準は高いが、あまりロジカルでないクライアントを猫タイプと定義します。

あれやこれや要求するものの、それが一貫性がなかったり、あまり意味がないものであったりするクライアントです。

例えば中国進出戦略を立てているのに、やっぱりインドも気になるから調べろとか、そんな感じです。

この手のクライアントはまさに猫のようにコントロールするのが難しく、炎上しやすいと言えます。 正ロジカルに攻めてくるわけではないので、うまくあしらって進められるマネージャーであれば、 ライオンよりはうまく対応できるでしょう。

犬タイプ

要求水準は大して高くないがロジック力が高いクライアントを犬タイプと定義します。

コンサルタントの意図は素早く読み取るが、多くは要求しない。 そんな天使のようなクライアントです。

コンサルタントへの理解を示してくれるので非常にやりやすいクライアントと言えるでしょう。 あまり炎上しやすいタイプではないと言えます。

羊タイプ

あまり要求しないし、あまりロジカルでもないタイプを羊タイプと定義します。 コンサルタントの提案にケチは付けないタイプなのでやりやすいと言えます。

ただし、正確にコンサルタントの提案を理解しきれていない場合は、後々そのボタンの掛け違えで検討が覆る等、 問題が起こることがあります。

基本的にきちんと合意形成しながら進めていれば炎上しないと言えます。

もう一つの軸

実はこれとは別に3次元目の軸として、 「コンサルタントへの協力度合い」も非常に大きいと思っています。

当たり前ですが、クライアント側が案件に乗り気ではなく、コンサルタントに協力してくれない場合、 非常に炎上の可能性が高まります。

案件の作業プランはある程度クライアント側の協力を前提として立てるので、その前提が崩れると確実に予定外の仕事が発生します。

よくある例としては、発注した部門と実際の対象部門が異なる場合です。

例えば経営企画部門が、間接費削減プロジェクトを立ち上げ、コンサルに依頼した場合、 依頼主は経営企画ですが、対象部門は間接材の部門となります。 当然間接材の部門は経営企画が勝手にやったことで外部から口を出されるので嫌がります。

また、もう一つよくあるのは、他のグループ企業などが絡む場合です。 コンサルの直接のクライアントがメーカーで新商品を開発する案件だったとします。 日本のメーカーの多くは製販分離していて、実施際に販売するのは別法人である販社であることが多いです。 この場合販社とコンサルには何の契約もないため、直接やり取りしにくかったり、情報を開示されなかったり、 協力してもらえなかったりすることが多々あります。

要素⑤:コンサル側の要因は非常に大きい

最後の要素はコンサル側です。 こちらは、5aのマネージャーと5bのスタッフに分けて話をしたいと思います。

5a:マネージャーの期待値コントロールがすべて

マネージャーは案件の責任を負っています。 その案件の目的、期間、納品物、メンバリング等をクライアントと握り、クライアントの期待値も含めてコントロールします。

これがうまくいかないと、ほぼ確実に炎上します。 うまくコントロールできないマネージャーの案件では、想定外が起こりやすいためです。

目的をきちんと握れていない場合は最悪で、目的ががらりと変わるとこれまでの作業は無駄になり、 すべてやり直さないといけなくなります。 例えば、案件3か月の内、2か月目でそれが起こったとすると、1か月で何とかしないといけないので、 絵に描いたような炎上案件になります。

期待値をうまくコントロールできないと、クライアントの言いなりになってどんどんスコープが広がって 予定外の仕事が増えたり、想定していた以上の調査が必要になったりして炎上します。

5b:スタッフはあまり要因としては大きくない

基本的な設計はマネージャーが担当することが普通ですから、スタッフのせいで予定外が起こり、炎上することはあまり多くないと思います。

スタッフが原因で炎上するとしたら、以下のようなケースでしょうか。

  1. スタッフのスキルが著しく低い
  2. メンバーが減る

スキルが著しく低い場合、当然ですがマネージャーが当初想定していた以上に労働時間が長くなります。 このタスクは一人でできるだろうと思っていたのに、スキル不足でできない場合、マネージャーや他のメンバーが尻拭いをするために追加的に働かないといけなくなります。

また、正確に意図を理解しないで作業をしてしまい、結局無駄になってやり直し、またはほかのメンバーが手伝うなども割とよくみられる光景です。

できないことを言ってくれればまだいいのですが、それも言わずに蓋を開けたらだめでしたが最悪ですね。

スキルの低いメンバーを計算に入れてチームを作っていればまだましですが、少人数で回す中で、 一名でもこういうメンバーがいるとかなり炎上しやすいと言えます。

また、メンバーが病気等で倒れたり、いきなり転職したりすると、炎上しやすいです。 元々3人でやる予定でプランしていたのに、いきなり2人になったら、当然他のメンバーにしわ寄せが行きます。 メンバーの埋め合わせができないとメンバーが長期間の長時間労働をする案件になり、炎上案件と呼ばれます。

ただしこれはかなりまれなケースです。 病気と言っても長期間に及ぶものは少ないですし、転職する場合は事前に相談し、 案件がきちんと片付いてから退職するのが普通です。

まとめ

色々と書いてきましたが、真面目に考えると、炎上の原因とはずいぶんたくさんあることが お分かり頂けたかと思います。

一応総括としてまとめると、

  • 案件の目的がフワッとしており、スコープが広いと炎上しやすい
  • クライアントの要求水準が高いと炎上しやすい
  • クライアント側からの協力度合いが低いと炎上しやすい
  • マネージャーがうまくコントロールできないと確実に炎上する
  • スタッフのスキルが低い場合は炎上しやすい

となります。

お気づきかと思いますが、マネージャーがしっかり案件をコントロールできるかが炎上するか否かの分水嶺となります。

案件の論点設定やスタッフへの配慮、チーミング等の案件設計はマネージャーの最重要タスクです。 (案件の論点設定はパートナーの仕事でもありますが)

進捗管理という点では、部下の仕事の進捗と、いかにクライアントの期待値をコントロールできるかが重要な点です。

ここまで、炎上の原因を書いてきましたが、

次はスタッフの立場として、炎上案件に入りたくない場合の立ち回り方、 炎上案件に入ることの是非等を考えてみたいと思います。